翡翠の日記帳12ページ目
2003年4月29日
「あぁ……、メイドが欲しいあるね……」
はぁ? 突然何言ってるんですか? 志貴様頭にボウフラが湧きましたか?
志貴様には、私という立派なメイドがいるではありませんか。
「翡翠こそ脳味噌にウジ湧いたか!? 翡翠のどこが立派なメイドね!?」
いや、私、メイドでしょう。どう考えても。
「違うね! メイドっていうのは、ちっこくて、恥ずかしがり屋で、おっちょこちょいで、従順で、赤面性で、ご主人様のご要望ならなんでも答えてくれて、すみまぇせん、お皿割っちゃいました〜。むー、ゆるせんお仕置きね! ビシバシ! っていうのが、メイドね! 翡翠なんて、メイドのコスプレしたイカレタ女よ!」
どうして、毎度毎度そういうアホな妄想を抱くんですか……
「何を言ってるか! メイドは漢のロマンあるよ!」
「よし、分かったアルよ。翡翠みたいなアレなのじゃなくて、本格的にメイドを雇ってみるある! メイドの雇用会社に連絡を入れるね!」
アホな事を……
「ええい、さっさとするね!」
分かりましたよ。では、家政婦斡旋所に……
「ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!」
「家政婦とメイドを一緒にしてはらならんよぁーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「家事を手伝って欲しいんじゃないある! 漢のロマンが欲しいいんあるよ!」
……あくまでメイドが良いんですか?
「そうある。メイドよ!」
はぁ、分かりました。まったく初心者がいきなりメイドに手を出すなんて……。
あれって結構難しいんですよ?
「メイドに初心者も上級者もあるあるか?」
そんなの当たり前です。そういう事も知らないから志貴様はメイド初心者だというのです。
分かりました。では、今回は正しいメイドの雇い方を話しましょう。
それでは、私の知り合いの出入国管理局の人に連絡してみます。
「……? なにか? なんで、そんなものが出てくるあるか?」
そもそもです。メイドとご主人様という関係に絶対必須なのは、主従関係なのは、志貴様も良く分かっているでしょう?
「もちろんね」
しかし、今の日本人に主従関係とか言われても、ピンと来ないでしょう。
男尊女卑やってた頃ならいざ知らず、ご主人様〜! とかいう、卑屈な精神を持ち合わせた女性は皆無と言って良いでしょう。
「……まぁ、そうかもしれないあるね」
ですから、外人を雇うんです。もちろん、超貧乏人を。
こちらが上で向こうが下っていう関係を作り安いんですね。貧乏人に対してのお金の拘束力は並じゃないですよ。
異国の地ですからね。ご主人様に捨てられたら、もう終わりですから。
「おぉぉ、なるほどぉ! それは素晴らしいね。ところで、給料はどのくらいね?」
そうですね。国にも寄りますが、中国とだと4000円。ヨーロッパの方でも3000円〜10000円くらいですね。
「日でか?」
月です。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! マジかあるか!? そ、そ、そんな値段で良いあるか!?」
私たちにとってはその程度でも、外国に行けば結構な金額ですからね。
3〜4年も働けば向こうでは平気で家が建ちますよ。
「完璧ね! 素晴らしい! 最高ある! よーし、早速雇うね! いけー! 翡翠!」
分かりました。しかし人選には注意が必要です。
ちなみに、サンプル写真がこちらに……
「むほぉ♪ この子がいいね! 若くて、可愛くて、キュートで、プリティーよ!」
あー、これはダメですねぇ(;´Д`)
もう、ダメもダメも、全然ダメです。もう一つオマケにダメダメです。選び方がなってません。
「何があるか?」
中学生くらいじゃないですか。体重も30キロくらいしかないですよ。きっと。
「そこが良いんあるよー。ヨタヨタバケツ持って歩いてくるのが!」
何言ってるんですか。メイドの労働を舐めてはいけません。重労働なんですよ。メイド業は!
志貴様が言っているのは、女の子に夜間の土木工事のバイトをしろと言ってるの等しいです。
あんまり貧弱なのを雇うと、すぐ倒れますよ。
良いですか。メイド選びの外見的なコツはガタイです。
ガタイが良い方が、良いメイドです!
例えば、この子とか――
「いやあるーーーーーーー。ガタイの良いメイドなんてーーーー! こいつ筋肉ムキムキあるよー! 名前も絶対ゴリアテとかよ!」
まぁ、他にも色々要素はありますが、子守を頼みたい場合は、出産経験者が良いですし、ある程度基本的に年を取っていた方が真面目に働いてくれます。まぁ、若い方が元気で力仕事も任せられるという利点もありますが。
「いいあるか! メイドは二十歳までって決まってるあるよ! 」
「あ! この子が良いね! この子にするね!」
また、外見で選んで……まぁ、さっきの中学生よりはまともですが……
「ワタシは決めたね! もう絶対にテコでも譲らないよ!」
はぁ、分かりました。じゃ、とりあえずこの子にしましょう。
では、これにサインを。
「なにあるか? これ?」
婚姻届けです。
「……なんで、こんな事せんといかんあるか?」
えっとですね。外国人労働者は大抵、変なブローカーを通ってくるわけですよ。
まぁ、当然これは違法なんですが、手間賃みたいなのが馬鹿にならないんですよ。
ピンハネも凄まじいですからね。
今回は私の独自ルートを使いますので、できれば危険を犯したくないです。
ですので、一番安全確実で安価で手っ取り早いのが、そのメイドが日本の戸籍を手に入れることです。
つまり、志貴様の妻として迎え入れれば、強制送還される心配もありませんからね。
「いや、しかしそれは単に嫁さんを貰うというだけなのでは?」
まぁ、そうとも言います。
「むぅ、それはダメね」
やっぱり、ダメですか。まぁ、財産分与の対象になったりしますからね。何年契約にするのは面倒なんですよねぇ。
「いや、そうじゃなくて、メイド五、六人はべらせたいあるよ」
あんた外道ですね。
「ロマンに忠実と言って欲しいね!」
まぁ、戸籍くらいなら五〇万くらいで闇で売ってますから、それを買うのも一つの手です。
「結構高いあるね」
そうですねぇ。まぁ、それでも仲介屋を通すとバシバシ高くなるので、最安値なんですけどね。
「まぁ、最初はそれでも良いね! よーし、雇うある! メイドさん!」
と言うわけで、遠野家でメイドを雇います。さてさて、メイド初心者の志貴様がちゃんとメイドを使いこなせるのか、心配でなりません。
次回に続く――
4月29日
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2003年5月7日
さて、とういわけで、前回の続きです。
前回、志貴様は私というメイドがいながらも、自分でメイドを雇いたいなどとあつかましいことをぶーたれて、新しいメイドを雇うことになりました。
ほんとに身の程知らずも良いところです。
「で、来るあるね! それはもう可愛いメイドさんが!」
まぁ、一応来ます。
しかし、志貴様に扱えるかどうか……
「心配しなくても良いね! 美少女ゲームならメイドキャラはそれはもうたんまり調教してきているね! 今更現実のメイドが怖くて、ゲーマーが名乗れないね!」
まぁ、そこまで自信満々なら……良いんですけど……
来てもらいましょう。
アルクメイドさんです。
『HAHAHA! YAHA!』
「……なんあるか? こいつは?」
ですからメイドのアルクメイドさんです。
「ちょっと待つね! こいつ変な言葉喋ってるね!」
そりゃそうでしょう。
日本語なんてマイナーな言語、外国人労働者がそうそうしゃべれるはずないじゃないですか。
「かー、なんつーことか!」
売春とかその辺りなら、組合もありますし、片言を覚えれば問題ないんですが、メイドは家庭内の事をしますからね。
コミュニケーションは重要です。
ですので、まずメイドには日本語を教えてください。
「マジあるか?」
当たり前じゃないですか。メイドの面倒を見るのがご主人様のつとめでしょう?
「なんか、本末転倒してる気がするあるよ」
何も知らない無垢なメイドに、手取り足取り教えるんです。萌えるでしょう?
「確かにその通りね! 言語の壁くらいワタシの萌えるハートでカバーしてみせるね!」
ええ、そのいきです。
「ところで翡翠」
なですか?
「さっきからこいつずーっとボーっとしているけど、これはどういうことか? メイドと言えば入ってきてすぐにテキパキ仕事をするものあるよ?」
あぁ、メイドというのは、放っておけば勝手に仕事をしてくれるという訳ではありません。
メイドというのは、ご主人様が命令しないと、なんもせん人種です。
命令されていない時間は自由時間ですからね。
メイドはあくまで職種で、家事は仕事なんです。
上司から何の指示も与えられなかったら、そりゃ誰でも困るでしょう?
「しかし、美少女ゲームのメイドさんは、テキパキやってくれるあるよ?」
あんなもん妄想です。現実はそんな甘かーありません。
「むぅ、分かったね。では、アルクメイド! 洗濯をするね!」
……
「む、どうしたあるか! 洗濯よ! 洗濯!」
……
「むぅ、動かないある。故障アルか?」
何アホなこと言ってるんですか。
志貴様が洗濯のイロハを教えないから出来ないんですよ。
「ちょっと、待つアル。洗濯くらい誰でも出来るアルよ?」
はー、まったく、これだから。美少女ゲーム浸けの脳味噌でメイドを雇いたいとか言う人は嫌いなんです。
考えても見てください。十代後半ですと、メイド初心者も結構多いです。
電化製品の使い方を知らない連中もいるんですよ。
「えー、それはいくらなんでも」
いるんですよ。貧乏外国人を舐めてはいけません。
良いですか。メイドを雇ったときは、もうとにかく細かい所まで気を配ってください。びっくりするほど物を知りません。五歳児を相手にするくらいの気分で丁度良いです。
すぐ変なもん食べますし、常識知りませんし、窓拭きをさせていたら、そのまま落ちて死んじゃったっていうメイドは以外と多いんですよ。
「そ、それは凄まじいあるね……」
「……む、ちょっと待つある。もしかして料理も?」
作れるわけありません。
「どういうことあるかーーーーっ! 民族料理が出てくるんじゃないあるか?」
国で作っていたものがあっても、日本とは材料が根本的に違いますからね。
基本的な料理すらできないというのは、良くあることです。
もちろん、料理も志貴様が教えるんです。
「むぅ、ワタシが教えるアルか……むぅ、ワタシ料理できないあるが……」
だから言ったじゃないですか。初心者には難しいって。
良いですか。メイドというのは基本的に、なんも出来ない役立たずです。
それを一人前のメイドに育てるがメイド道。素人にはなかなか難しいんですよ。
「奥が深いアル……」
あと、変に欲望に走っちゃダメですよ。
世界では、たくさんのメイドもいますが、虐待されているメイドも少なくありませんからね。
当然、異国の地で他に頼るところがありませんから、やろうと思えば、本気で奴隷に出来ます。
人間扱いせずに、まともに食事を与えないって人もかなりいるらしいですから。
虐待し続けて殺しちゃったって話も、メイドの世界では珍しくありません。
「ワタシをそんな陵辱ゲーみたいなのと一緒にしないで欲しいね!」
「ワタシはもう、それはもう愛を持って育てるねー。メイドに辛い思いなんてさせないよー」
あ、ちなみに、甘やかせるとつけあがりますから。注意してください。
私の知り合いなど、主人がいない間に家に男を連れ込んだり、主人を主人と思わなかったり、お金をこっそり盗んだりと、それはもう大変な事をしていました。
「むぅ、翡翠みたいなやつね……」
私はもう遠野家の扶養家族に入ってますから、この立場は当然なんですが。
「って、いつから、そんな扱いになってたあるか!?」
ずっと前からです。
まぁ、それはともかく、メイドを育てるということは、子供を一人育てるのに匹敵するくらいの労力を費やします。苦労は並々でありませんよ。
そう言えば、専門の業者に頼むと、完全調教済みの便利なメイドさんを送ってくれるらしいです。
質が高いほど値段は高いんですが、その分育てる苦労がなくて良いらしいです。
まぁ、自分で育てた方が愛着が沸くとかいう意見もあるので、その辺はどっちもどっちですが。
「よーし、分かったある。これから、アルクメイドを世界一のメイドに育て上げるね!」
ええ、その勢ですよ。志貴様。頑張ってください。
さて、こうして遠野家に新しいメイドが雇われることになりました。
このお話の続きは機会があれば、またしましょう。
しかし、メイドの調教って、どうするんでしょうね?
マニュアルがあったらかなり欲しい所です。
メイドの調教したことがある人、情報お待ちしております。
「本気で情報集める気か?」
当然です。
5月7日
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2003年5月14日
さて、今日は弓塚さんに呼び出されて、彼女の家にいます。
なんでも、もう読まない漫画や小説本をくれるとのこ事なんですよー。
私は人から本を貰うのが好きですので、たまーにこうやって処理しに行きます。
まぁ、古本屋に売りに行けば良いんでしょうけど、持っていくのが面倒らしいので、私が処理しているのです。
「と、いうわけで、こんだけ全部あげるよ」
ありがとうございます。
……って、凄い蔵書量ですね……
なんですか? これ……凄い古いのまでかなりありますね……
「うちのお爺ちゃんがコレクターだったんだよ。でもちょっと前に死んじゃって。で、邪魔だから捨てようって話になったの」
なるほど、それで私を呼んだわけですね……
えっと、とりあえず、小説から漁りましょうか。あ、夢野久作全集じゃないですか。これは貰いましょう。欲しかったんですよー。泉鏡花とかもあるんですねぇー。あ、これも欲しいです。これも持って帰りましょう。へぇ、色々ありますねぇ。
「お爺ちゃん色々読んでたからねー」
しかし、いったいこれ何年のですか……? うわぁ、昭和30年代の漫画とかありますよ。結構異様ですね……
あ
「どうしたの? 翡翠ちゃん?」
こ、これってもしかして……横山光輝の鉄人28号じゃないですか!

「それがどうかしたの?」
うわぁ、凄いですねぇー。私も漫画本の現物を見るのは初めてです。
知ってる人は知ってると思いますが、この本、凄く高いです。
世の中同人誌が高い高いなんて言われてますが、古本も高いやつは相当高いです。
要するにプレミアですからね。
うわぁ、これ一蜂大二のナショナルキッド! こっちは桑田次郎の月光仮面じゃないですか!
ちょ、ちょっと待って下さい! 藤子富士雄の最後の世界大戦まである!?
な、なんで、こんな希少本がこんな所に……
「どうしたの? さっきからブツブツ言って?」
い、いえ、分からない人にはゴミなんでしょうが、これ、宝の山ですよ……
「そうなの? でも、いらないから上げるよ。邪魔だし」
いや、そんな簡単に上げるとか言われても……
ここまで値打ちがあると、ちょっと素直に貰えませんよ。
手塚治虫の『虫の標本箱』とか。これ、私の記憶では、確かこれ四セットで二十万くらいしますよ……
「……ただの紙くずじゃないの?」
違いますって! まぁ、私の目利きなんて大したもんじゃないので、正確な値段は分かりませんが、これ全部売れば、一財産ですよ。
と、言うわけで、私たちは、そのお爺ちゃんが懇意にしていたとかゆー古本屋を読んで貰いました。
古本屋さん大喜びでした。(/д\;)そりゃそうだろうなぁ……
結構良い値になりました。
これをくれようとしていた、弓塚さんて大物です。いや、マジで……
弓塚さんになにも言わずに貰って帰ろうとかとも思いましたが、さすがの私でも、良心がキリキリ痛みますから、これで良かったのかも知れません。(晩ご飯は奮発してもらって、遠慮なく食いましたが……)
それから(多分五十代くらいの)古本屋さんは、コレクターについて色々と熱く語ってくれました。
「古本は本格的に集めようとしたら、頭を使うし、基本的には肉体労働なんじゃよ。欲しい本が見つかれば、飯代や電車賃を抜いてでも購入代金にあてる。足腰が鍛えれ、重い物を持ち歩くのが日常だから、オタクなんぞという生物よりも、より体育会系な趣味と言えるじゃろうなぁー」
え? コレクターって、体育会系だったんですか……?
初耳ですよ。それ……
「私の知り合いは、スリムで筋肉質のやつばかりじゃよ」
はぁ……
「私も阪神大震災の時は泣いたよ……。私が二十年かけて集めた愛しの蔵書一万冊がガラクタになってしまったからね。本棚が倒れて、水道管が破裂してビショビショさ……」
古本屋さんはアルバムを見せてくれました。
古本の表紙のを並べて写真を撮ったものを、アルバムにしているのです。
「今では、このアルバムの写真だけが、あの子たちの思い出じゃよ」
そう言っう古本屋さんの目には涙が浮かんでいました。
こ、これが古書マニアななんですねぇ。……と、私は戦慄していました。
いや、凄いですねぇ……
自分の子供とかよりも、大事にしてたんじゃないだろうかと思うくらいです。
オタクは凄くないですが、コレクターっていうのは、次元を超えた凄さを持っているなぁーと、心底思わされました。
「でも、これって、私から見たらゴミだよね。完璧に」
まぁ、本ならともかく、缶とか王冠とかだったら、私でも捨てますからねぇ……
こうして貴重な文化はきっと今日も、どこぞのゴミ捨て場に並べられているんでしょうねぇ……
あー、私が死んだら、私のコレクションたちは一体どうなるんでしょう? まだま死ねんよ〜 なんてことを思いつつ――
みなさんも、死んだときの為に、コレクションの処分方法は、遺書は書いておきましょうね。
5月14日
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2003年5月21日
「さて、今日は<漫画学と美少女学の関係とその将来>についての講義をしたいと思う。つまり、うんちくである。うんちくの嵐である。うんちくを読みたくないものは、そっこく立ち去るが良い!」
ネロ教授。お客さんにそういう態度じゃダメですよ。
一行目で立ち去るが良いって、営業する気ないでしょう……
「漫画を読むようなやつは、すべからず馬鹿だからな。そんなやつは講義など聞いても無駄だ。漫画を読んでいて、頭が良くなったというヤツがいたら、お目にかかってみたいものだ」
教授……漫画の話をするのに、漫画を読む人は聞いても無駄って、矛盾してません?
「……してるか?」
してます。
ネロ教授も漫画読むでしょう。私も教授も同類なんですから、あんまりバカバカ言ってると、抗議のお便りが来ますよ。
「抗議のお便りなど、ゴミ箱にぽいだ」
そういうこと言うの止めて下さい。私がやってると思われるじゃないですか……
なんにしても、漫画読み馬鹿論は、話し出すと長いので置いておきましょう。
それより、今回の講義のことを話してください。
「うむ……、仕方在るまい」
「実はこの講義を始めようと思ったのはだな、この前、日曜洋画劇場でX−MENを見たからなのだよ」
やってましたね。
「私はてっきりサイプロクスが主人公なのだと、思っていたから、ウルバリンが主人公でえらく驚いてな」
ええ、見た目的に、サイプロクスとか、ガンビットが主人公っぽいですよねぇ。
私もアニメX−MENを見ていたときは、ウルバリン脇役の癖に、なんであんなに登場回数が多いんだと、疑問に思っていました。
あーゆー、腕毛の生えたオヤジキャラを主人公にするのが、アメコミといえば、アメコミですねぇ。
で、それがどうかしたんですか?
「そのことが気になって、日本と海外の漫画文化の誓いを色々と調べてみたのだ。アメリカ、韓国、香港、ドイツ、フランス。結構調べるのに時間がかかったぞ」
なるほど、今日はその漫画文化のお話ということですね。
アメコミとかは私もたまにおめにかかりますが、アジアの漫画とかはあまりみませんねぇ。
「なかなか凄いぞ。それは色んな意味で、私的にはやっぱり香港漫画が良い。
実はな、香港漫画の9割がある一つのジャンルしかやっておらん」
なんでしょう?
「ほら、あるではないか。香港と言えば連想する単語が」
香港……ほんこん……ほんこん……ほんふん……ほんふー……
……カンフーですか?
「その通りだ! 香港ではバトルだ! 武侠物というらしいがな。もうそれしかないってくらい筋肉バトルばっかりやる」
なんとも安直な……
「とにかく劇画調で、問答無用の濃さを誇っている。凄いぞぉ。漫画喫茶においてある所もあるので、一度調べてみるがいい」
でも、香港漫画って……ショボそうですよねぇ。
完璧に私のイメージですけど、日本映画がショボイのと同じくらい、香港漫画ってショボイイメージがありますねぇ。あと、パクリが多いとか。
「確かにパクリは多い。あそこはバトルっていれば、何でもアリだ」
「だいたい」

「こんなであり」

「こんなであり」

「こんなこともあって」

「こんな風に聖矢とベガが闘っていたりする」
これって、同人レベルじゃないんですか……?
「そういうのも多いが、実はそう捨てたものではない」
「劇画調を極めてる。濃ゆい絵を描かせたら、日本の漫画家でも歯がたたんのではないかと思うほどだ」

「こんなにムキムキされたら、筋肉好きにはたまらんだろう!」
「香港漫画の面白いところは、作るシステムだな。日本のシステムは作家がいて、アシスタントがいて、編集がいるというシステムだろう?」
ええ、そうですね。漫画家は人間じゃないみたいな扱いですから。
「日本は漫画は作家個人の物という思考が強いのだが、香港は完全に企業が漫画を作る。脚本家、チーフ作画(主筆)、背景、擬音の文字、動線、装飾、仕上げを完全分業性で流れ作業でするのだ」
へぇ、変わってますね。
「どうやら香港映画の手法がそのまま取り入れられたらしい」
「香港の出版社に見学に言ったときに、生原稿を見せて貰ったが、無茶苦茶でかくてな。凄いぞ。コマごとに切り取り、一コマごとに人を割り振って、もうこれでもかってくらい書き込んでいるのだ。一コマ書くのに魂を込めてるな。線だらけなのだ。とにかく凄まじく細かい。あれはある意味感動だった」
「担当の中には筋肉担当というものもいてな。もう毎日毎日、筋肉ばっかり書いてるやつもいるくらいだ。筋肉に需要は高いからな」
壮絶ですねぇ……。
でも、なんかこのシステムって、美少女ゲームのソフトハウスにも似てますよねぇ。
シナリオがいて、原画いて、グラフィッカーがいてって感じじゃないですか。
「そうなのだ。その辺りが香港漫画学と美少女学の関連なのだ」
「現在、香港の漫画業界は武侠物に凝り固まっていてな。完璧に多様性を失った飽和状態にある」
「本当に良いものというのは、新しい挑戦をし続けている大量の悪いもの、混沌のがなくば生まれぬ。日本の漫画は個人レベルだったから、本当に色々やれたが、企業レベルとなると、奴らは売れるものしか作らん。つまり筋肉ムキムキの武侠物オンリーなのだ。多様性を持つようにはなかなか成長せんな」
少女漫画とかはないですか?
「ほとんどない。香港漫画は濃いのが特徴だ。猛獣のようなバトルとか破壊とかには、非常に向いているのだが、細かな心理描写が全然できん。少女漫画は線が少なくて白いのが、良いのだ。
劇画調の少女漫画など誰も読まないだろう?
それに絵にこだわりすぎて、肝心のストーリーがしょぼしょぼになっている。香港の連中はシナリオが下手だからな」
「しかし香港の人間は、ムキムキでバトルだったら、細かいことは気にしないのだ。ニーズが硬質化し過ぎて、流れがない状態だな」
萌えればそれで良いっていう日本人と同じですねぇ……
なんというか、日本人の美少女萌えが、香港の筋肉萌えの状況なんでしょうね……
どっちもどっちって感じですよねぇ。
「うむ、私の目には香港漫画の凝り固まり方は、不健全に見える。実際、香港で漫画を読むのは、ほとんど男だ。女は漫画を読まない」
「だが、どうも読者はあまりそれに気づいてないらしいのだ。とにかく今好きだからいいやという刹那的思考だけなのだな。制作者の方は、日本っていうお手本があるために(今でも香港漫画の4〜5割は日本漫画らしい)この状況を打破したいと考えているようだがな」
つまりネロ教授は、実は現在の美少女業界も外から見たら、多様性を失ったおかしいジャンルになり果てているのではないか、という危惧をもっているわけですね?
「その通りなのだよ! 私はそれを考えると夜も眠れぬ!」
「どうなるのだ、私の萌え萌えライフの未来は!」
……まぁ、心配いらないでしょう。
「何故かね?」
シンプルです。エロは永久に不滅だからです。
AVビデオなんて、多様性を失ってもう長いですが、全然生き残ってますし、新しいもっと良いもの(バーチャルセックスマシーンとか)が出来るまで、決して滅びることはなさそうですからね。
「……では、エロでない美少女ゲーは?」
さぁ、どうなるんでしょう?
美少女業界に足りないものが多様性だと仮定するならば、「同人」と「アンソロジー」が鍵を握っているかもしれません。
もっとも、これは私の個人的な見解ですけどね。
「うむ、なるほど。同人を作るときは売れるものを度外視しても、完全に自我に凝り固まった独りよがりのものを作れというわけだな」
凄まじい死体が出るでしょうが、そういう屍が今は必要なのではないかなぁ……と思ったりするわけです。
「大量生産大量淘汰というわけか」
そういうことです。
ちなみに私は商売至上主義者ですので、売れるものしか作りません。
売らなくても良いものは、この日記みたいに適当に作りますけどね。
ちなみにあともう一つ、閉塞された多様性に対する問題解決方法を、私は提示できますが、これは私が既に実戦してる方法ですんで、極秘とします。さて、みなさんどんな方法か想像つきますか?
「さて、ではそろそろ今日の講義を終わる。フランスとドイツの漫画学も結構楽しいので、評判が良かったら、またやろうかと思っている。やって欲しいものは、やって欲しいと声を上げていうがいい」
では、今日はこの辺りで。
ほんとにうんちくばっかりでした……
5月21日
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2003年5月29日
がたん!
あー、びっくりした。翡翠さんじゃないんですか。なんです? こんな所に。
取材ですか? なんの? え! 僕を取材するんですか?
今日のテーマは「ひまつぶし」だから?
ははぁ、それで僕の所に来たわけですね。
光栄だなー。じゃ、この会話がそのまま翡翠の日記に載るわけですねぇ。あ、実名伏せて、ちゃんと編集してくださいよ。
もうテープが回ってるから早く話せ?
はいはい、分かりましたよ、翡翠さん。
それでは(オホン)僕は某U○J銀行に勤める銀行マンです。色々ニュースでも叩かれていますが、一流企業の社員です。
うちの会社、ほら合併とか色々やっているでしょう。だから当然の事のように従業員て多いんですよ。
もちろんリストラとかも大量にありましたけど、それでもまだ多いんです。
僕は窓口で相談員やってるんですけどね。合併前までは一人でやってたんですけど、今は三人いるんですよ。
うちも相当、人が溢れてるみたいですね。
給料は下がりましたけど、仕事量が三分の一に減りましたね。
お陰で暇です。もう全然暇です。やることないんですよ。仕事が定時で上がれるのは良いんですけどね。
けど、仕事中に遊んでいるわけにも、寝てる訳にもいかないじゃないですか。
だから、一日ボーっと過ごしているわけですよ。まぁ、それで給料が貰えるんだからっていう話もありますけど。暇だっていうのは、本格的に辛いんですよ。
だから、僕は色々と暇つぶしの方法を考えるんです。
僕が最初に始めたのは、「何秒間瞬きしないでいられるか」ってやつに挑戦しました。
え? なんでそんなことをするのかですか? 暇つぶしに意味なんてないんですけどね。
敢えて意味をつけるとしたら、本格的にこんな事を練習する人って、日本でも何人もいないでしょう?
もしかしたら、こんな練習しているのは自分だけかも知れない。
そう思ったら、止められなくなりましたねー。
目標は五分を設定して頑張って練習しました。
ちなみに三ヶ月で目標はクリアーしましたよ。やっぱり、目標があると仕事にも励みがでますねー。
次ぎに、サインですね。芸能人とかやってるじゃないですか。ああいうのを練習するんです。もうひたすら。
お客さんがサイン下さいって言ってきたら、 「アイドル風ですか? 野球選手風ですか?、おすもうさん風ですか?」 って聞き返すくらいになりましたよ。
それから僕はそれで家にある全ての私物のリストアップをしたんです。
もし、死んだときに誰に何を贈与するかを決めておくんです。ほら、先々週も言っていたでしょう? 遺書は必要だって。
こんな感じですかねー
この度死ぬことになりましたので、メンバー分の財産分与は以下の通りになります。
○翡翠様:コミック・小説全部。ノートパソコンと、ディスクトップパソコン。
○志貴様:やきミスのCDR全部。綿とれた耳掻き。切れない爪切り。インクのなくなったボールペン。
○秋葉様:ハレンチ学園のビデオテープ。
以上速やかにお受け取り下さい。
これやってると結構時間がつぶせます。
自分の持ち物で、相手が嫌がりそうなのを誰に何が相応しいかを考えるのは、結構楽しいんですよ。
こんなもの貰ったら嫌だろうなぁとか考えながらやるんです。
他にも色々開発しましたよ。
せんべいを囓って犬の形にするとか。
近辺の地図を作るとかですねー
靴下と足の匂いを比べるとか。
でもですねぇ。こうなってくると、仕事時間だけじゃ足りないんです。
大規模な暇つぶしは、休日がメインですね。
日曜日とかはですねー。公園に行ってアリを観察するんです。仕事中には出来ませんからね。
まず一匹に名前をつけて、そいつをずっーっと追うんですよ。
足を二本ばかりあらかじめ千切っておくと、他のアリと区別がいつて追跡はしやすいですねぇ。
穴に入ったら、見失うので、入る前に先回りして穴は潰します。
え? 酷い? 何言ってるんですか。相手はアリですよ。大したことじゃありません。
それで一日中ずーっと、アリの後を追いかけるんです。そうですね。六時間くらはやらないとダメですね。でも、十時間を超えた辺りで、キャラサリンが……あ、これアリの名前ですけどね。そのキャサリンに感情移入してくるわけですよ。
四本足で頑張ってる健気なキャサリンを見てると、もう泣けてきますよ!
最後は「キャサリン、今までご苦労さま。さぁ、もうお帰り」って言って逃がしてやるんです。
ね。良い話でしょう? アリと人とのヒューマンドラマですよ。
そんなのは良い?
時間がかかるの以外で、野外の暇つぶしですか?
えっと、そうですね。墓参りなんてのもしますね。
「山田さんの墓を探して墓参りする」って、暇つぶしです。
これで難しい名前にすると、墓地を何件も回る羽目になるので、最初はよくある名前にした方が良いですね。
もう暇じゃないと絶対に出来ないところが、最高だと思いません?
あぁ、そうそう、ウンコ日記は絶対に外せませんね。
毎日食べたものを、メモして次の日のウンコを観察するんです。
ポラロイドか何かで写真を撮っておくと、データーが集めれていい感じですよ。
いや、これが以外と奥が深いんですって。最近、気づいたんですけどね。
食べたものによって、ウンコの色が変わるんですよ。
イカスミ汁を食べた次の日は真っ黒でしたし、ゴーヤチャンプルを食べた次の日は緑なんですよ。
研究してると、自分の好きな色のウンコを出せるようになります。
え、なんですか? 翡翠さん? そんなに嫌そうな顔して。
さては、暇つぶしを舐めてますね。分かってませんね。暇つぶしこそ、人間が行える最大の贅沢じゃないですか。究極の浪費ですよ。
考えても見てください。子供の頃は楽しかったでしょう? あれはね。毎日が無駄に暇つぶしをしていたからなんですよ。砂遊びや人形ごっこも、同じです。
無駄なんです。でも、それは無駄からこそ、楽しいんじゃないですか?
無駄を楽しむことが、人生の幸せだと私は思いますけどね。
え? こんな馬鹿な話題で、最後にそんなシリアスに締めるな?
分かりましたよ……。
じゃ、翡翠さんが締めてくださいよ。
翡翠さんは、どんな暇つぶしが良いと言うんですか?
トイレに行って、お尻を拭くだけで出てくる?
あぁ、それは素晴らしいアイディアです。
5月29日
了
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2003年6月5日
はぁ……。もうすぐ梅雨ですねぇ。志貴様。
「どうしたあるか。翡翠? なんか元気ないあるね」
いえね。大したことじゃないですけどね。
最近家の人に小説ばっかり書いてないで、たまには外に出ろとか言われるんですよ。
「平日から、家でゴロゴロしてるのが悪いある」
そんなこと言ったって、ベットの上で横になりながら小説を書くのが、私のスタイルなんですから、仕方ないじゃないですか。
「でも、あんたのかーちゃんだって、自分の子供が部屋に閉じこもりっきりになってたら、気になるあるよ」
そうなんですけどね。
そう思って昔、一ヶ月くらい家を出てたら、家に帰ってこいって言うんですよ。
「いや、普通言うある」
まったく困ったものです。
一日2時間睡眠を続けていたら、もっと寝ろと言われ、
一日10時間寝たら、もっと早く起きろと言われ、
勉強ばっかりしてたら、たまには遊べと言われ、
遊んでいたら勉強しろと言われる。
まったく私にどしろというんでしょうか?
「いや……普通にすれば良いアルよ」
何を言っているのですか。志貴様。普通なんていうありそうで絶対にありえない観念で私をしばられても困りますよ。
人間を平均値化してどうするんですか。どっかの義務教育じゃあるまいし。
「まぁ、普通らしくしていれば、親は問題ないとみんな思うあるからなー」
そういう普通の人間こそが、実は腹で何考えてるのか分からないんですよ。
「そうねー。やっぱりばかりがいけないんあるよ。偏ってるのは、日本ではあんまり良いことではないあるからね」
しかし、大成している人間は大抵ばかりじゃないですか。
野球ばかりしている野球馬鹿しか、プロにはなれませんよ。
そういう人間はばかりでも誉められるんですよ。
同じばかりだというのに、何が違うというのでしょう?
「うぅん。そうね。私が思うに……」
「迫力の違いではないあるか?」
迫力?
「そうある。一心不乱に野球に打ち込んでいるのを見てみるね。止めることの出来ない迫力があるあるよ」
確かにありますね。
「受験勉強にしても、迫力がないから、なんか貧弱なイメージがあるよー。目に炎を灯して勉強すれば、なんか見守るしかない感じあるよー」
なるほど……そうかもしれません。
迫力を持って漫画を読み、迫力を持ってゲームをし、迫力を持って寝る。
もちろん、劇画調で
そんなことされたら、怖くて誰も文句が言えないかも知れませんね。
でも、どうやって漫画を読むのに迫力を与えれるんでしょうか?
「そうね。漫画を読みながら、ヒットマンに銃口を向けられて狙われているのを想像するあるよ」
「撃たれたら、自分は漫画を読めなくなるかも知れない。続きが気になる。読み切るまでは死ねない。死んでたまるものか! ぬぉぉ! あたらんよ! 落ちろぉ! ファイアー! これあるよ!」
訳分かりませんが……
「翡翠も子供の頃は、チャンネル争いに血で血を争う死闘を繰り広げた経験があるはずよ。絶対にチャンネルは変えさせへんでぇ! っていうあの気迫。あれが必要なんあるね」
まぁ、なんとなく言いたいことはわかります。
本屋でどれだけ注意されても、立ち読みを止めないみたいなもんですね。
「そういうことある」
そう言えば、ネロ教授なんかは家族公認らしいですよ。
「そうなんあるか?」
ええ、なんでも部屋の扉を開けたら100体以上の美少女フィギアに埋もれて寝ているネロ教授を、母親が発見したらしいです。
「……」
その姿に、母親はあらゆる注意をするのを諦めたらしいです。
「確かに……相当迫力のある睡眠方法ね……」
ええ、ちなみに私、その時の写真を持ってるんですが、ネロ教授に聞いたら、ネットで公開したらダメだと言われました。
なんかゴミ捨て場に死体が転がっているみたいで、非常に面白いので、ちょっと残念です。
「顔にモザイク入れてもダメあるか……?」
ダメだそうです……
「それは残念アルね……」
さて、と言うわけでみなさんも漫画を読むときは、迫力を持って読みましょう。
どんな人手も迫力を持って読むことは出来ます。
出来ていない人は、真に迫力を与えてくれるだけの漫画に出会っていないだけなのかもしれません。
逆に言うなれば、そこまでの迫力があれば、何を言われても気にならないだけなのかもしれませんけどね。
6月5日
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2003年6月12日
「よく来たね! 翡翠!」
……あんまり来たくなかったですが、来ましたよ志貴様。
まったく、どうして志貴様の実家はこんなにも遠いのでしょう。
来る方の身にもなって欲しいです。自転車で片道一時間四十分って、往復だと三時間二十分ですからね。
「ぐーたら、文句言うんだったら、電車でくれば良いある」
嫌ですよ。電車代使ってまで、なんでこんな豚小屋みたい狭い部屋に来なくてはならないんですか。
「何が豚小屋か! ここはワタシの城よ!」
網戸半壊して虫入りまくりの城なんて、ガキのオモチャでも壊せます。
「網戸はそのうちなおすね」
まったくです。クーラーもかけずに私を出迎えるなんて、良い度胸してます。
「それはそうと翡翠。一つ疑問なんあるが」
なんですか?
「何しに来たアルか?」
夏コミの同人誌の打ち合わせに決まってるでしょうが!
「え? 受かってたんあるか? 初耳よ!?」
何言ってるんですか。受かってましたよ。
これで五回連続ですからね。もはや落ちる気がしませんね。
「あいやぁ。それはまた大変ね。私、翡翠と違って仕事があるよー」
ぐ、いやみたらしいことを……。
「ひがな一日、ドリームキャストに向かってるダメ人間と違って忙しいよね」
だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
うっさいなぁ。もう、良いじゃないですか。
私だって、平日のまっ昼間にドリキャスに向かってると、凄い悲しくなるんですよ。
志貴様に私の気持ちなんて、分からないんです!
「はぁ、まったく暇暇くんの翡翠が羨ましいある」
黙れっちゅっとろぉが! ( `Д´)つ)´Д`)バキィ
「それはともかく、今回のスペースはどこね?」
むぅ、ノーダメですか。平然と切り返しやがった……。
「で、どこあるか?」
また西館です。
「えー、またあるか?」
ち−07bです。一応島角ですが。
「まったく最近西ばっかりねたまには東に行きたいね」
んなこと言われても、それは私の責任じゃありません。
「いいある。とっとと打ち合わせするね。まず店番翡翠」
待て。
「それでページの割り振りあるが……」
待てというとるでしょうが!
「今回はイラストが四〜五ページで、四コマ漫画が……」
人の話を聞けぇぇ!
( `Д´)━━━━━○)゚O゚)ドゴォォ
「むぅ、なにあるか! このワタシの華麗にして完璧な打ち合わせを邪魔しようとは、お天道様が許しても、編集長が許さないね! もちろん90万の志貴様ファンの読者もブーイングの嵐よ!」
なに勝手に人を店番に任命してるんですか!
店番と言えば弓塚さんがいるじゃないですか!
「翡翠……それ爆弾発言よ。あんな良いヤツを、店番としてこき使うためだけにコミケに連れていこうなんて! 信じられないアル」
あ、いやぁ、まぁそうですけど……
「残念ながら、今回は弓塚は不参加よ」
え!?
「なんでもどこぞで格ゲー作ってるらしいよ」
そうですか。それでは仕方在りませんね。貴重な戦力だったんですが……
じゃ、今回は志貴様と二人きりなんですか?
「そうね翡翠と二人きりで、コミケなんてドキドキね」
殺人事件が起きそうで?
「死ぬのは翡翠あるよね?」
私は第一発見者役です。
「二人しかいなくて片方が死んだら、もう一人が犯人決定あるよ!」
なに訳のわからんことを言ってるんですか。
そういう与太話はどうでも良いです。さり気なく話題を変えようとしないでください!
「ちっ(〜`д´)〜」
で、なんで私が店番なんですか。
第一回からずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと私が店番じゃないですか。
たまには志貴様が店番やっても、バチは当たらないでしょう!?
私だって同人誌買いに行きたいですよ!
「翡翠、我が儘言うのは良くないね。自分だけが不幸なんて思ったら、大きな間違いある。サークルで売り子している人は大抵本を買いに行きたいね。そこをみんなグッと我慢してるあるよ」
その中で志貴様だけが妙に幸せなのが、許せないだけです。
「他人をやっかんだら、人間はお終いよ。広い心を持つね」
志貴様もたまには、そのゲジゲジみたいにちっこい心を広げてください。
「ワタシはいつもオープンハートよ」
本当に心臓えぐり出して、広げてあげましょうか?
「翡翠の欠点は、そういうジョークを真顔で言うことね」
志貴様の欠点は、ジョークと本気の区別を付けれないことですね。
(゚ω゚)……
……(・_・
「と、とりあえず、この話はおいておくね……」
そうですね。
「じゃ、先にページの割り振りを決めるね。今回は私がディレクターとレイアウトをやるね」
分かりました。
「今回はこういう割り振りでいくね(`□´)ノ⌒□←割り振り表」
……
ええ! なんですか! これ! 私のページが少ないですよ!
「我が儘いうの良くないね。たまにはワタシの言うことを聞くある!」
えーーー、でも、なんかかえって難しいですよ。これ……。
「その変わりワタシは表紙もあるから、翡翠の二倍は働く計算よ」
バランス悪いですって。私にもっとページください。
「安心するね。翡翠が店番することで、この比重がチャラになるね」
だから店番は嫌だとゆーとろーがー。この万年中国人がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
こうして、打ち合わせは深夜にも及んだ……。
そのため、志貴様の家に泊まる羽目になってしまったのである。
それで、私は志貴様の飼っていた犬の座布団を枕に、犬の布団をかけぶとんにして、床で眠らされました。
人の家に泊まりにきて、こんな屈辱的な扱いを受けたのは、生まれて初めてかも知れません。
あぁ、なんか今回も私が店番やりそうな展開……ぐすん。
みんなお土産もってきてね。お菓子より飲料水とか希望……。あと、菊池秀行の本を集めているので、いらんひとは下さい。Dと魔界都市シリーズとか……あ、そうそう綾辻行人の館シリーズも欲しい。宮部みゆきの理由、模範囚、ブレイブストーリーも欲しい。竹本健治のウロボロスの基礎論も欲しい。クイーンのXとZの悲劇(Yは持ってる)、ポーの黒猫、ホメロスのイリアスとオデュッセイアも欲しい……。
一人寂しく店番してる私に、誰かタダで差し入れてください。本棚のつごうで、ハードカバーより、文庫版の方が望ましいです……。
こうして志貴様の部屋での一夜は明けていくのでした。
6月12日
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2003年6月19日
「あぁ、聞いてくださいよ。翡翠ちゃん」
どうしたんですか? 琥珀姉さん。なんか元気ないですね?
「ええ、実は友達が警察にパクられちゃったんですよ」
なんか、微妙に生々しい話ですね……
何やってたんですか? その友達って?
「ドラックストアーの店員です」
……
えっと……、薬屋さんですか?
「広義の意味では、あれも薬屋ですねぇ」
もしかして、バイヤーですか?
「そうとも言います」
……姉ぇぇぇさん。そんなのと付き合うの止めてください。マジ、洒落にならんですよ。
「人脈は財産ですよ。どこで何が役に立つかわかりませんからね」
災いしか呼ばなさそうですよ……
「なんですか。翡翠ちゃんは麻薬もやったことがないんですか?」
あるわけないでしょう!
あぁ、もう、こんな健全なページで麻薬の話なんぞせんでください。
「えー、でも、最近日本も微妙にチェック甘いですから、若い子で経験者割といますよ」
姉さんやったことあるんですか?
「乙女のたしなみ程度には」
私姉さんと縁を切りたくなったんですけど……
「ダメですよ。偏見は。婚前えっちはとんでもないって時代がありましたけど、今はそうじゃないでしょう? 人間の思想なんて、その程度なんですから」
でも、薬はダメでしょう? いくらなんでも。
「アメリカでは、未成年のヤクの経験者なんて、ザラですよ」
アメリカと一緒にせんでください。
「そんなことないですよ。1946年から1951年までは、覚醒剤が日本でも普通薬として市販されていたんですよ」
「時が来れば、あんがい大したものじゃないって事になるかも知れません」
色んな思想を肯定する人がいると思ってましたが、麻薬肯定派は初めてみましたよ……
「別に肯定しているわけじゃありませんよ。否定していないだけです」
でも、体壊すじゃないですか。それと分かってて何でやるんですか?
「好奇心でしょうか」
猫を殺せるくらいですから、人間だって殺せますよ。きっと。
「ちなみに、私の時は痩せ薬だと言われて、高校のセンパイに貰いました」
あぁ、なんでそんなの飲むんですか! 無茶苦茶妖しいじゃないですか!
「でも痩せると言われたら、飲んじゃうのが乙女心というもでしょう?」
それは痩せるんじゃなくて衰弱するんでしょう?
「そうなんですけど、まー、私はそれで気分が悪くなった口なので、あんまり続けないタイプでしょうねぇ」
そうなんですか?
「お酒と一緒ですよ。ほら、翡翠ちゃんもあんまりお酒飲まないでしょう?」
ええ、飲み会以外では、飲みませんね。
酔う状態があまり好きではありませんし、頭が痛くなりますし。あんまり気持良いものじゃありませんから。
「それと同じで、麻薬も最初の経験で気持ち悪いと、あんまり続けなくなるみたいです」
じゃ、気持良いとはまっちゃうんですか?
「ええ。マリファナとかコカインとかは結構填りやすいみたいです。抜け出れなくなるくらい。ですから、初心者は向精神薬の類がお奨めです。覚醒剤とか……」
お奨めしないでください! 麻薬取締法では進めても罪ですよ!
私はまだ捕まりたくないですよ!
「えー」
えー、じゃないです。社会常識ですよ!
「分かりました。じゃ、進めません。健全な人は健全に生きるのがお奨めです」
そうですよ。変な道に読者を誘わないでください。
「何にしても、麻薬は個人でやるものじゃないです。一人で隠れてやると、際限なくやっちゃうことが多いので、壊れやすいです」
「グループ麻薬だと、一人だけでは止めにくいですが、みんなが止めるときに、結構サクっと止めれちゃったりするので、実はこっちの方が安全だったりします」
だから……、一人でもグループでもやらないのが一番です……。
「でも最近は、日本もあんまし安全じゃないですからねぇ。大阪の南周辺では相変わらずですし、ネットの力は結構強力ですからねぇ。私も、二、三ルートみっけてしまいました」
あんたいい加減にしないと……警察通報しますよ。
「ははは、大丈夫ですよ。一回二回じゃ死んだりしませんよー」
だから、そういう発言が危険なんですってば……
「あ、麻薬で思い出しましたけど、麻薬犬っているじゃないですか」
ええ、いますね。
「あれってどうやって躾るか知ってます?」
知りませんけど。
「あれはですねぇー。麻薬の染みこませたタオルで遊んでやるんですよ。すると、犬は麻薬の匂いを嗅ぐと、遊んでくれると思うんですね。そうやって習慣付けるわけです」
へー。
「その応用で、麻薬の染みこんだタオルで人間の子供と遊んでやったら、麻薬人間が出来るんですよ。知ってました?」
嘘を言うな嘘を!
「え? 友達の麻薬人間志願者が、麻薬の染みこんだタオルを、ガンガン吸って遊んでましたけど……」
それは100パーセントやばい人じゃないですか!
……
薬物乱用は犯罪です
麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、覚せい剤取締法、あへん法、毒物及び劇物取締法などの法律があります。
麻薬や大麻、覚せい剤等を他人から受け取ったり、所持したり、使用したりすると厳しく罰せられます。単に持っているだけでも処罰されます。
「なんか、エロゲーのレイプは犯罪ですって言ってるみたいな感じですよねー」
姉さんはもう黙っててください……。
6月19日
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2003年6月27日
トルルルル……
はい、もしもし? 翡翠ですが。
「あの、私日本育英界のものなんですが」
はぁ、なんでしょう?
「翡翠さん。大学では確か奨学金を貰ってましたよね」
ええ、そう言えば貰ってましたね。
「卒業したんだから、返してくださいよ」
えー、奨学金ですよ。なんで返さないといけないんですか。
「いや、一種は返すものです。免除されるのは公務員になった時だけですよ」
無職街道まっしぐらで、年金も所得税も払えない私が、どうやったら、教育ローンなんぞ払えると言うんですか。
舐めたこと言わないでください。
「あの、舐めたこととか言われても……一応貸してるわけですから、返していただかないと……」
私はこう見えても、責任感ありまくりの人間です。
返す宛がないのに返すなんて、無責任な事が言えると思っているんですか?
「貸した金を返さない時点で、責任感が欠如しまくっているように感じるんですが……」
そんなことはありません。ちゃんと返します。
いつか。
「大体にして、あなたの借金200万ですよ」
「志貴様に48800円貸してるということすら、大したことには感じられなくなる値段ですよ……」
うっさいですねぇ。なんであなた志貴様の事を知ってるんですか。
返す気のない200万よりも、取り立てられる48800円の方が請求する気になるでしょう。
しかし、普通五万近く借金して、半年近く返さないあの人の精神構造には驚嘆するばかりです。
「二〇〇万以上借金して、返さないあなたの精神構造には戦慄を覚えるのですが……」
酷いこと言いますね……
返す気はあります。返す宛がないんですってば。
私が仕事始めるまで、のんびり待っていて下さい。
「いつになったら、仕事するんですか?」
さぁ、そのうち。
「あまり酷いようだと強硬手段に訴えますよ」
というと?
「民事訴訟法に基づく法的処置を執ります」
ひ、卑怯ですよ!
金を返さなかったくらいで、裁判なんて!
「金を返さない方がよっぽど卑怯です」
くぅ、これだから金貸しは嫌いなんです。アイフルでロングコート・チワワがちょっと可愛いかなぁとか思いましたが、大きな間違いでした!
あんたたちはやっぱり裏では、暴力団と繋がっていて、借金の取り立てが凄い激しくて、腎臓売って金にしようとかそんなこと考えているんです。
あなたたちなんて、人間のクズです。弱者を虐めて何が楽しいんですか!
「だから、金を返してくださいってば」
返す宛がないって言ってるでしょうが!
「我が儘言わないでください」
それはこっちの台詞ですっ!
「私で良いんですよ!」
もう良いです。まったく話になりません。次はもっと話の通じる人を電話に出してください。
「あんた、話が分かったら、待って貰うつもりでしょう」
では切ります。
「あ、待て……」
ガチャン。
ふぅ。
そんなこんなで、なんとか今回の電話はやり過ごせました。
とりあえず、電話線ひっこ抜いて起きましょうか……。
まったく嫌ですねぇ。なんで借金取りなんかこの世にいるんでしょうか。
借金取りが居なくなったら、きっと世の中はもっと平和なんでしょうねぇ〜
この世から借金取りがいなくなる事を願って……
あーめん。
6月27日
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2003年7月5日
あぁ、今日もいい具合に雨が降って、絶好のゴロゴロ日よりですねぇ♪
「翡翠ちゃん……機嫌が良さそうですね……」
ええ、勝ちましたからね。それでです。
「ギャンブルですか?」
まさか、そんなのするはずないじゃないですか。
それより、そういう琥珀姉さんは、調子悪そうですね?
「はい……私はもうダメです」
? どうかしたんですか?
「それがですねぇ。最近、会社で死ぬほど残業させられているんです……ここのところの労働時間が一ヶ月で270時間ですよ」
「手取りが20万で、残業手当が30万です。もう、無茶苦茶です。完璧に労働基準法違反です」
そんなの良くある事じゃないですか。
お金が手に入って良いじゃないですか。
「良くありませんよぉ。家に帰ってテレビも見たいし、ゲームもやりたいんですよぉ。素直にもう一人雇えとか思いますよぉ」
まぁ、そのレベルだとさすがにそんな感じですねぇ。労働基準法だと、一日八時間。週四〇時間以上の労働をしてはいけないってことになってますからねぇ。
確か、残業も一日3時間時間以上はしちゃいけないんですよねぇ。(三六協定より)
「そうですよ。でも、現実に『労働基準法違反だから働きたくないっす』なんて言えませんからね」
あぁ、そういえばいましたねぇ。どっかのゲーム会社で、『この会社は労働基準法に違反している』と上司に言って、クビになったやつ。
「違反をしているのは向こうなのに、文句を言ったらクビって、なんか絶妙に理不尽ですよねぇ」
でもまぁ、他の社員が働いているのに、自分だけが帰ろうなんて都合の良いヤツは、とっととクビにしてしまえとかも思いますが。
実際雇用者は、会社が大変な時に、社員に働くように呼びかける権利は持ってますからね。
「ええ、ですから、普通こういうとき誠意を見せるのは会社側であって、社員側ではないはずでしょう?」
というと?
「つまりですね。会社がどんだけ忙しくても、社員にだって都合があるわけじゃないですか」
「しかし、そんな都合なんかおかまいなしに、お前はこの会社に所属している以上、仕事を優先させるのが当然だ。みたいな顔してるのが気に入らないんです」
「普通は会社のために、仕事してくれてありがとうでしょう? まぁ、そこまで卑屈になれとは言いませんが、本来会社と社員は対等でしかるべきなのに……」
でも、体育会系クラブ活動とかしてても、良くあるでしょう。そういうこと。
縦社会は、階級差があることが前提になってますからね。
「だから、理不尽なんじゃないですか」
うーん。なんですかね。微妙にガキの理屈っぽいですよ。姉さん。
そういう矛盾を内包しているのが、社会でしょう。
真っ直ぐなだけで、社会がたちいくはずがないんですよ。
全体の歯車を上手く回すためには、小さい歯車を騙し騙しやるしかありませんし。
結局の所、社会というものは、建前と本音があり、本音は常に建前と矛盾していますが、その矛盾に楯突くよりも、受け入れてしまった方が楽なように出来ているんですよ。
「翡翠ちゃん……何かあったんですか?」
なにもありませんが?
「なんで、そんなに真面目にトークしてるんですか? そんなの全然翡翠ちゃんらしくないじゃないですかっ!」
いや……私だって、たまには真面目な話もしますよ。
「うそです! 翡翠ちゃんがこんな真面目な話をするときは大抵落とし穴があるんです!」
今日はないですって。
「……そう言えば、一番最初に勝ったとかどうとか言ってましたけど、何に勝ったんですか?」
あぁ、裁判です。
「は?」
ですから、裁判に勝ちました。
「話が見えてこないんですが……」
実はこの間、私、労働基準法関係で裁判起こしたんですよ。
「いや、あの……」
私もちょっと前に、バイトで働いていたことがありまして、それが結構な時間だったんですよ。
もちろんバイトにも、労働基準法が適用されます。
んで、一日八時間を超えた時間については、時間外労働手当という扱いになるので、これは本来の給料の二五%増になります。
「えっと……そうなんですか?」
姉さんの所も、残業手当は割高でしょ?
「あぁ、そういえば……」
それでですね。給料を見たら、その上乗せ二五%分が入ってなかったので、文句を言いに言ったわけです。
「相手にしてくれないんじゃ……」
もちろん、してくれませんでしたから、小額訴訟を起こしました。
「なんですか? それ……?」
少額訴訟は早い、簡単、安いがモットーのなかなか面白裁判です。弁護士を通さないので、本格的に安いです。
「……」
免許証の更新並の書類記入と、証紙三〇〇〇円と切手代使うくらいですし、一回の審議で結果が出る、裁判とは思えないお手軽さです。
しかも、これで裁判すれば、ほぼ勝てます。
なんせ、支払い金額もバイト代程度の少額なので、向こうもわざわざ対抗しようなんて、考えませんからね。面倒ですし。
なんて言うんですかね。裁判で勝つて、正直めっちゃ楽しいですよ。
「あの、翡翠ちゃん……なんで、そんなことやったんですか?」
こんなに気持の良い嫌がらせって他にないじゃないですか?
「ごめんなさい」
なにがですか?
「やっぱり、翡翠ちゃんは翡翠ちゃんでした……」
それって凄い失礼なもの良いじゃないですか?
「矛盾の中に矛盾があって、表返らずにクラインの壺を形成しているのが、翡翠ちゃんですもんね?」
微妙に、分かりにくい例えですねぇ……
つまり、こういうことです。

いや、だからわかりませんって……
7月5日
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